第24章 ファン感謝祭
二人三脚を終え、ホマレは勝負服を着たまま神座と学園の中庭に向かった。
ウマ娘や学園関係者、来客達が入り乱れている。
『人いっぱい居るね。賑やかだけどはぐれちゃいそう』
「別に一緒に行動する必要はありません。単独ならはぐれることもないですよ」
『ヤダ、一緒に居て! 一人のときにファンに声掛けられても緊張して黙り込んじゃうから』
「世話の焼ける……」
一人でトレーナー室に戻りかねない神座を引き留め、ホマレは周囲を見回した。
有名どころのウマ娘たちがファンに囲まれ、写真撮影や立ち話をしている。
ダービーウマ娘や二冠ウマ娘が特に人気の的のようだ。
見たところ、ホマレに声を掛けたそうにしている人はいない。
『…………』
「日差しが強いので木陰に入りましょう。飲み物を買ってくるので、あなたは先に場所取りをしておいてください」
神座がすぐ近くの芝生にある木を指差した。
『わかった。じゃあ待ってるね』
そう言って別れ、ホマレは神座に指定された木の陰に座り込んだ。
新芽の割合が多く、繊細な柔らかさがある芝生。冬に比べて密度が減っていて、接地面ではひんやりとした土の気配を感じる。
『(ファンレターとかたまに貰えるけど……感謝祭に来てわざわざ未勝利戦以降一度も勝ててないウマ娘に寄ってくるほど暇な人なんて居ない……のかも)』
そんな考えが頭をよぎり、ホマレは膝を抱えて俯く。
少し離れたところから聴こえてくる無数の楽しげな声がひどく他人事のように思えた。
まるで華やかなステージとその愉悦に浸る観客席を、舞台袖からひっそりと眺めているような気分だ。
『……はぁ』
無意識に溜め息が出た。
ホマレはまるで身を隠すように、耳を伏せながら膝に顔を埋める。
自分に会いたがっている人がいるかもしれない。そんな思いで人通りの多い中庭に来たものの、杞憂でしかなかったようだ。
もうファンはいい。神座が戻ってきたら一緒に中庭から離れて他のイベントを楽しもう。
ホマレは自棄気味にこの後の予定を考え直すことにした。
「ほ……ホマレちゃん?」
ふと、背後から幼げな声が聞こえた。
『えっ?』
聞きなれない声に振り返ると、小学生くらいの子供が木の陰に隠れるようにしてこちらを見ていた。