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ラストラインを越えて

第24章 ファン感謝祭


ホマレは逸る気持ちを抑えつつ、神座のシャツをギュッと掴んだ。
『まだ、ギリギリ間に合うかも……!』
「……そうですね。諦めるにはまだ早い」
神座の脚がわずかに加速し、ホマレもそれに合わせてスパートを掛ける。
〈ゴール前、並んだ――ッ!!〉
数秒にも満たない時間、ホマレは息を止めた。
次の瞬間、胴体にテープが触れる。だが、ほぼ同時に隣を風が抜けた。
千切れたテープをはためかせながら、2人分のウマ耳と尻尾が目の前で揺れていた。
『……っ!』
〈フィニッシュ!! わずかの差で青ゼッケンのペアが1着!! 赤ペア、惜しくも2着です!!〉
歓声と拍手が一斉に湧き起こった。
ホマレは肩で息をしながら、それでも嬉しそうに笑う。
『はぁ……っ、負けちゃった。でも最後すごかったね!』
「ええ。それに、あなたのスピード調節のおかげで転倒せずに済みました。全力疾走したかったでしょうによく耐えましたね。……僕の速度に合わせた影響で1着を逃してしまいましたが」
『へへっ、褒めてくれて嬉しいからチャラ!』
ピースしながら言うと、神座は目を伏せながら小さく息を吐いた。
「そうですか……まあ、怪我もないようで良かったです」
そう答えてから少し進み、神座はしゃがんで2人の足首に結んでいた布をほどいた。
『あっ、もう外しちゃうんだ』
「競技が終わりましたからね。こんなもの、いつまでも付けていたって仕方がありません」
コース脇に行き、続々と後続のペアがゴールするのを見ながら神座が言う。
『ちぇっ。まだ余韻に浸ってたかったな~』
「別に結んでなくてもいいでしょう」
わざとらしく寂しげな声を上げるホマレに神座が静かに返した。
『まーいいや。出走お疲れさま、トレーナー。今日は付き合ってくれてありがとね!』
「どういたしまして。僕としても貴重な体験ではあったので、そう悪くはなかったです」
退屈しのぎにはなったらしい。
ホマレはそれを聞いて嬉しそうにまた笑った。
『えへへ、よかった。来年も出よっか?』
「……スケジュールに余裕があれば、検討しましょう」
スタンドの歓声はまだ止まない。
風に乗って揺れる赤い布が、2人の間で小さく翻った。









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