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ラストラインを越えて

第24章 ファン感謝祭


『あっ、そうだよ……!私キトウホマレ!』
今日初めて知らない人に声をかけられた。
ホマレは咄嗟に立ち上がり、木の反対側に立つ子供を覗き込む。
「ホマレちゃん、さっきの二人三脚すごかった。隣にいたお姉さん……お兄さん……?と頑張ってたね」
『見てくれたんだ。ありがとう!』
参加した競技を観戦してくれていたことが嬉しくて、ホマレは顔を綻ばせてそう返した。
小さい子供も照れたように笑い、モジモジと木の幹にまた隠れようとする。
『それで、あー……えっと』
ファンと話すのはこれが初めてだった。
会話の繋げ方がわからず、子供との間に沈黙が生まれる。
「耳飾り……」
ポツリと子供が呟く。視線はホマレの左耳に向けられていた。
『ん? 耳飾り触りたいの?』
ホマレはしゃがみこんで子供の前に頭を差し出す。
左耳にはタッセルの付いた星型の耳飾りが付いている。
耳をそっと撫でられた後、タッセルを優しく握られた。
「お耳ふわふわ……耳飾りもきれいだね」
『へへ。これ私のトレーナーが選んでくれたんだ』
耳元にくすぐったさを感じつつも、子供の好きにさせながら自慢げに笑う。
「あのね、こないだの有馬記念も見たよ」
ふいに子供が手を止め、ホマレに言った。
『ほんと? ありがとう!……良い結果残せなくてごめんね』
ホマレの脳裏に去年の惨敗がよぎる。
せっかく観に来てくれていたのに、良いところを見せることが出来なかった。
「ううん。一生懸命走ってたの知ってるよ。だって、最後の直線ずっとこれが流れ星みたいになってたから……」
言いながら子供が耳飾りを撫でる。
その言葉にホマレは首を傾げた。
『流れ星?』
「うん。ホマレちゃんが全速力で走ってたとき、石がキラキラ光って、このフサフサしたところが真っ直ぐになって、流れ星に見えたの」
子供がタッセルを持ち上げ、再現する。
耳飾りに嵌め込まれたジルコニアが木漏れ日を反射し、子供の顔に光を散らした。
風で枝葉が揺れる度に、その光が鮮やかに揺れる。
『ふふ……そっか。良いこと教えてくれてありがとね』
光彩をまとった子供の頬を指で一撫でしながら微笑む。
遠くから親らしき大人がこちらに向かって走ってくるのが見え、ホマレは立ち上がった。
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