第23章 三女神
4月上旬の中庭。心地の良い日差しが校舎を照らしている。
キトウホマレは噴水に聳える三女神の像を見上げて立ち尽くしていた。
『(噂……本当かなぁ)』
今くらいの時期に三女神の像の前を通りがかると、何やら不思議な力が湧いてくる。そんな噂を耳にして、ホマレはトレーニングも何もない放課後に中庭を訪れていた。
もう既に30分くらい噴水の近くをウロウロしているが、変化のようなものは特に何もなかった。
『(座って待ってみよっと)』
学校の七不思議程度。しかし体験談はちゃんと複数存在する。
しかも噂の出どころはトゥインクル・シリーズで優秀な戦績を納めたウマ娘ばかりからだ。
優駿だから不思議な体験をしたのか、不思議な体験をしたから優駿になれたのか――どちらかは不明だがホマレは自身の成長に繋がればと、噂の検証をしに来ていた。
『ふわぁ……』
柔らかな風がそよそよとホマレの髪を揺らす。
天気も良いし気温も過ごしやすい。
噴水のフチに座ったまま、時間を潰すことにした。
3時間くらい経っただろうか。
空には赤みが差し、カラスがどこかで鳴いている。
『(何にも起きなかったな……)』
所詮は噂だ。ホマレはスマホを鞄にしまい、そろそろ帰ろうかと三女神像を見上げた。
「そんなところで何をしてるんですか?」
背後で声をかけられる。よく聞き慣れた声だった。
『あっ……トレーナー!』
振り返ると、神座が立っていた。
校舎の渡り廊下から出てきたらしい。
『ねぇ、三女神の噂知ってる? この時期にここを通りがかると不思議と力が漲ってくる……かも、みたいな話なんだけど。それが本当かどうか試してるんだ』
ホマレが説明すると、神座はいつものように淡々と言葉を返す。
「非現実的ですね。何をしようとあなたの自由ですが、休みの日を無為にしてまで試すことではないと思います」
そう言うと神座はホマレの横を通りすぎ、そのまま歩き去ろうとした。
『トレーナーどこ行くの?』
「別に。トレーナー室に戻ります」
『私も行こーっと』
ホマレは噴水のフチから腰を上げ、神座について歩き出した。