第22章 図書館
『(まだどうするべきか分からないけど……とにかく甘えてばかりじゃダメだ! 何かビックリさせるような、恩返しになるような良い勝負をいつか見せるぞ……!)』
ちょっとやる気が湧いてきた。自分だけの目的が生まれ、何だか新鮮な気持ちで本棚の群れから出ていく。
お昼休みが終わる前にぼちぼち教室に帰ろう。
そう思って図書館から出ようと進むと、少し離れた区画に見覚えのある背中を見つけた。
『(あ、こないだの有馬記念の……)』
ひときわ小さい体格に、シャープなフレームレス眼鏡。斜め後ろから見る姿に、黒と赤の勝負服の印象がフラッシュバックした。
そのウマ娘は、全国のレース場や観光案内など、地理に関するジャンルの情報誌がメインに置かれている棚の前で本を選んでいるみたいだ。
『(私の1つ前だったけど……ラストスパートの脚の回転すごかったなぁ)』
自分も必死に走っていたからちゃんと見る余裕はなかったけど、思い返すとカッコイイ走りが脳裏に浮かぶ。
通り過ぎながら思い出に浸っていると、小さなウマ娘が振り返った。
「……何か?」
『えっ』
ホマレは驚き、思わず立ち止まる。
まさか気付かれるとは思ってなかった。
「――ああ、前にもこうして視線を感じたことがありましたね」
そう言いながら、目の前のウマ娘がフッと笑う。
『す、すみません。その……去年の有馬記念で一緒に走ったなーって思って、つい……!』
不躾に見つめてしまっていたことを弁解まじりに謝る。
「そうでしたね。あの時は苦しかったでしょう。けれど最後まで諦めなかった姿勢、印象に残っていますよ、キトウホマレさん」
『私の名前……知ってるんですか』
「ええ。自分の出るレースの出走者の顔と名前には目を通しているので」
それはそうだ。ライバルを把握するのは大事だと以前神座も言っていた。
しかしその把握を神座に任せきっていたホマレは、目の前のウマ娘の名前を一欠片も思い浮かべられなかった。
『あーっと……すみません。あなたのお名前を教えてください……』
焦った様子で恥ずかしそうに訊くホマレに、小さなウマ娘は静かに微笑む。
「気にしないでください。私はドリームジャーニーです。ホマレさんは今年シニア級でしたっけ」
『そうです。よく知ってますね?』