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ラストラインを越えて

第21章 バレンタイン


『神座トレーナーっ』
ミーティングの後、ホワイトボードの文字を消している神座の後ろからキトウホマレが声をかける。
『今日は何の日でしょーか!』
「2月14日です」
振り返らずに答える。
一拍後、今度は少しじれったそうな声色でホマレがまた質問を投げてきた。
『……2月14日と言えば?』
「バレンタインデーですね」
キトウホマレが期待しているであろう言葉を答える。
今日一日、学園内はその行事のせいか全体的に浮き足立っていた。
神座は背後から感じる緊張と高揚を無視したままボード消しを溝に置く。
『はい、これ私のチョコ!いつもありがとう!』
神座は静かに振り返る。差し出されているのは金の箔模様がきらめく、群青色の化粧箱だ。ホマレは少しはにかんだような笑顔で、神座がそれを手に取るのを待っている。
『こないだ百貨店で買ったんだ。実物大の蹄鉄型のチョコだからデッカいよ!』
手のひらに収まるくらいの大きさの箱。確かに蹄鉄ひとつ分が入るサイズだった。
チョコを受け取った神座はほんの数秒、黙ったまま視線を箱に落とす。
「ありがとうございます。……今日あなたの集中力が削がれていた原因はコレですか」
『ええっ、そんなにソワソワしてた? ごめんなさい……』
渡すのを楽しみにしていたのだろう。今日の彼女の意識は、始終どこか上の空だった。
そこまで気になるなら出会い頭に渡せばいいものを……。
「謝らなくて結構です。今日はそのために集中できなかっただけでしょう」
イレギュラーがあったから平常よりも落ち着きがなかった。それだけのことだ。
明日からはまた普段通りに振る舞うだろう。
『へへ……それ、一生懸命選んだんだ。トレーナーの口に合うといいんだけど』
許されたと判断したのかホマレはもう機嫌良さげに渡したものについて話す。
『手作りも考えたんだけどさ、合理的?に考えるなら作るより買う方が早くて美味しいだろうなって』
一から作って渡したところでどんな苦言が来るか予想したようだ。
確かに、そんなことをしている暇があるならトレーニングや休息に充てるべきだろう。
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