第20章 福引き
神座は差し出されたギフト券用の封筒をただ受け取る。
「この温泉旅行券、2人1組で行けるからね。良かったねェ」
「……」
おじさんから肩をバシバシと叩かれながらそう言われた神座はそのまま黙って立ち退いた。
『トレーナーすごいじゃん! 特賞って本当に当たるもんなんだね』
感心しながら神座に駆け寄る。
神座は隣に並んで歩くホマレを一瞥し、ホマレの前に先ほど手渡された封筒を差し出した。
『ええ……っ? これトレーナーのだよ?』
「僕には必要ありません。そもそもあなたの券で出たものですし、あげます」
『でも私がやってたら当たってなかったよ多分。だからトレーナーのものでもあるじゃんか』
封筒を差し出したまま歩く神座と、それを手に取らずに付いていくホマレ。
「早く受け取りなさい。あなたの帰り道は反対方向でしょう」
『あっ……ほんとだ』
このまま2人で歩き続けるわけにはいかない。
神座が納受を促すも、ホマレは両手を下げたままその場に立ち止まった。神座も半歩先で立ち止まる。
『じゃあ分かった、その温泉旅行券は私の。そんで、その券は神座トレーナーが保管しといて。私たちのだから、いつか2人で使お!』
そう言って、神座の言葉を待たないまま退散するようにホマレは自分の寮の方向へ走り出す。
『じゃーね、トレーナー! また明日!』
笑いながら走っていくホマレをしばし見送る。段々と小さくなっていく人影はやがて夕闇に融けて見えなくなった。
神座は静かに封筒をカバンにしまう。
「…………」
預かるのは別に苦ではなかった。ただ、“いつか2人で”という言葉に対しては、否定も肯定もしないまま小さく息を吐いた。
封筒の重みを感じるようにカバンの位置を少し直してから、神座もまた夕時の忙しない人混みに紛れて歩き出した。