第20章 福引き
1月のある夕暮れ時、キトウホマレは買い物袋を提げて商店街を歩いていた。
『(福引きの券もらっちゃった。何が出るかな……)』
引き換え場所に行くために進んでいると、少し遠くによく見慣れた後ろ姿を見つけた。
黒い長髪に黒いコートの男だ。
『あ……トレーナー? おーい、神座トレーナーっ!』
呼びかけた相手が振り返る。神座出流で間違いなかった。
こちらを待つように立ち止まったのを見て、ホマレは嬉しそうに小走りで商店街を駆ける。
『トレーナー! 今帰り?』
「お疲れ様です。そうですが、何か用ですか」
『特にないけど……あっ、そうだ。クジ券があるから一緒に引きに行こ』
了承の返事を待ちもせずホマレが神座を先導するように歩き、すぐ先にある福引きブースを指差した。
『新年の運試し! 特賞は温泉旅行券だってさ』
「くだらない……あなたは人参1本とティッシュが当たります」
『断言しないで? 2回分持ってるから1回ずつやろうね~』
ホマレは神座の手に無理やりクジ券を握らせ、福引きの列に並んだ。
『ティッシュでも貰えるだけマシだけどさ、どうせなら良いものが欲しいよね』
「貪欲ですね」
『ウマ娘だからねー』
よりよい結果が欲しくなるのはレースでも同じだ。
貪欲、強欲。ウマ娘の原動力と言って差し支えない。
『私の番だ。良いもの当てるから見ててね!』
福引き券をスタッフに渡し、ガラポンタイプの抽選器の前に立った。
『よいっしょ……!』
中の玉がゴロゴロ転がる感覚を確かめるようにレバーを回す。
出てきた玉の色は――。
「白! はい、参加ありがとねェ!」
流れるような挙動でスタッフのおじさんがホマレの手にティッシュを置いた。
『…………』
ホマレは納得いかなそうな顔をしながら神座に一瞬だけ振り返り、それからすぐに場所を空けた。
『……トレーナー、私の仇を取って!』
頑張れ、の代わりにホマレがそう声援を送る。
神座は返事をするでもなく、しごく事務的な動きでガラポンを回した。
コトリ、と穴から玉が出てくる。
「おお!! おめでとう、特賞だよ兄チャン!!」
ハンドベルを仰々しく鳴らしながらおじさんが言い、周囲からは羨むようなドヨめきが立った。