• テキストサイズ

ラストラインを越えて

第19章 初有馬


退場し、地下バ道を通って控え室までの道を歩いていく。
胸を満たすのは達成感というより、走り切っただけの安堵だった。
14着。最後から2番目だという事実が重くのしかかる。
『(叱られるかも……)』
汗を拭いながら足を進めると、少し先の自分の控え室の前に神座の姿が見えた。 ちょうど戻ってきたところらしい。
『トレーナー!』
ホマレが疲れた脚でドタバタと駆け寄る。その足音に、神座は静かに視線を向けた。
『た……ただいまッ!』
「お疲れ様です。どうでしたか、有馬記念は」
神座は控え室に入るなり振り返り、抑揚のない声で問いかける。
ホマレはいそいそと後に続き、閉めたドアに背を預けながら口を開いた。
『えっと、ごめんなさい。……みんな強くて、全然前に出れなかった』
後ろめたさから、ホマレはもごもごと小さな声で言う。
「結果は想定内でした。元々、勝たせるために送り出したわけではありません」
神座は淡々とタオルと水を渡しながら答える。その声音には叱責も慰めもない。
『……そっか』
短く呟き、ホマレは視線を落とす。
多少なりと今回の位置取りや着順について何か言われると思っていたのに、何もない。ただの"想定内"。
『(なんだろ。もうちょっと、こう……他にないの?)』
どこか物足りなさのような感覚が胸に残る。
その空虚さをどう処理していいか分からず、ホマレはただタオルを握りしめた。





その夜。消灯時間はとうに過ぎ、暗い室内からはギンガウェーブの寝息が微かに聞こえている。
ホマレは寝つけずにベッドの中で天井を見つめていた。
『…………』
有馬記念が終わり、ライブが終わり、何事もなく神座と帰った。今日はそれだけの日だった。
『(控え室のときからずっとモヤモヤする。何でだろ……)』
神座の態度はいつもとそんなに変わりなかった。
ただ淡々と出迎え、意見を聞き、見解を示す。
それがいつもの流れだ。
――想定内でした。
――勝たせるために送り出したわけではありません。
神座に言われた言葉を反芻する。
モヤモヤの原因がこの発言にあるのは分かるのに、一体何に引っ掛かっているのかいまいち自覚できない。
ただ、自分が欲しかった言葉じゃなかったことだけは確かだ。
/ 132ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp