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ラストラインを越えて

第19章 初有馬


ゲートの閉まる鉄の軋む音を聞きながら、ホマレは祈るような気持ちで胸元のスカーフリングを握り締めた。
スカーフリング越しに自分の激しい鼓動が伝わる。
右隣のゲートが埋まるまでそのまま静止し、やがて手を離す。
15名全員がゲートに収まった。
内バ場や遠くのスタンドからの期待のこもった視線と熱気に胸焼けを起こしながら、走る体勢を整える。
『……』
目の前のコースをただ見据え、息を殺す。
胸の奥で何かが張り裂けそうになった、その瞬間――ゲートが開いた。
ウマ娘たちが一斉に飛び出し、第3コーナーへ向かって走っていく。
ホマレの作戦は追い込み。最後方について最初のコーナーを曲がっていく。
芝がボロボロに削れきった内ラチを踏みしめながら進み、細長いバ群はスタンド正面に入った。
黒々とした観客席が視界を掠める。聞こえてくる歓声を余所に直線を進んだ。
急坂に差し掛かり、ホマレは呼吸を抑えながら脚を踏み出していく。
『(すごい足音……)』
力強い踏み込みで坂を駆け上がるウマ娘たちの背中を、どこか他人事のような心地で眺める。
轟音と振動を追いかけている気分だ。
今まで中山レース場は何度も走ってきたはずなのに、全く違う場所のように感じた。
スタンド前を駆け抜け、コーナーをまわり向こう正面へ。
『(たぶん、展開としてはスローペースなんだろうけど……付いていくだけで精いっぱい)』
元からスピードにそこまでの自信がないのに加えて、緊張で脚の動きがどうにもぎこちない。
最後方からでもバ群の勢いに呑まれて、距離がじりじりと開き始めている。
『(ダメだ……後ろすぎる。今のままだと仕掛けが間に合わない……)』
けれど、無理に置いていかれないように走るとスタミナを無為に削ってしまいかねないから自分のペースを保つしかなかった。
そうこうしている内に下り坂の直線が終わり、また第3コーナーへと入っていく。
コーナーの中間付近で、目の前の差しや追い込みのウマ娘たちが動き始めた。
『(そろそろ出なきゃマズイ……!)』
ホマレは流れに乗れていない現状をなんとかしようと、神座から指示されていた位置より少し手前で仕掛けることにした。
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