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ラストラインを越えて

第19章 初有馬


ホマレの垂れた尾が足元でそわそわと揺れる。
『(でも、怖いのは私だけじゃないよね……?)』
他のウマ娘たちに目を向けてみた。
皆多少、緊張の面持ちで立ってはいるけれどホマレほど戦いているわけではない。
ここに居ることがひどく場違いに思えた。
『(いや……違う、私だって走れるはず……!トレーニングだって毎日頑張ってるしGⅢもGⅡも良いとこまでいったし、ファン投票だって……繰り上がりだけどこうやって有馬に届いたし……!)』
無理やりやる気を上げようと、これまでの積み重ねを思い返す。
けれど「できることは全てやったのに劣る」という実感に、余計に緊張が増してしまった。
こんなんじゃダメだ。せっかくGⅠに出れたっていうのに。
俯くホマレの耳元で、耳飾りの房が力なく揺れた。
『…………』
ふと、自分より背の低いメガネのウマ娘が目に留まる。
とても落ち着き払っていて、良い走りをしそうな雰囲気が漂っていた。
『(うわ……強そう。勝負服も黒と赤でカッコイイし様になってる……)』
大きなスリットの入った長い裾が風に靡くたび、まるで鋭利な刃物のように堅く揺れる。
視線に気が付いたのか小さいウマ娘がこちらに振り返った。
「……何か?」
穏やかな口調と表情の、いかにも大人しそうなウマ娘と目が合う。しかしどこか威圧感のある薄い水色の瞳に、ホマレは思わず息を詰まらせた。
『あ、いやっ……な、何でもないです……!』
ついジロジロと見てしまった。 ホマレは気まずさから逃げるようにそそくさとゲートに向かっていく。
『(なんかもう今日はダメな気がする……まだ始まってもないのに、まともに走れるビジョンが一切見えない)』
自分の入る順番を待ちながらホマレは他のウマ娘からも観客席からも目を反らし、肩を竦める。
『(こんなんじゃ、神座トレーナーにいいとこ見せられない)』
少しでも気が紛れるように神座の言葉や顔を思い浮かべようとしたものの、全て緊張に掻き消されてしまう。
自分の枠番のゲートに入ると同時に、静かに溜め息を吐いた。
『(せめて……トレーナーに恥じない走りをしなきゃ)』
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