第18章 私だけを見つめて。
「似合っていますよ。……あなたに贈って正解でした」
神座がそう言うと、少しばかりホマレの耳が前を向く。
『贈って……』
「ええ。僕が出したのは、あなたの金欠を救うためじゃありません」
神座はホマレを一瞥する。
「プレゼントです。誤解のないように」
『う……うん、わかった』
戸惑いつつも頷いたホマレを見て、また歩き出した。
ホマレも神座についていく。
『ね、ねぇ……耳飾りの代金には全然まったく届かないけどさ、近くの喫茶店で何か飲んでかない? せめてごちそうくらいはさせてよ』
「寄り道ですか」
『そうだけど……ダメ?』
神座の顔を覗き込みながらホマレが少し先を進む。
「いいでしょう。休日ですし時間はあります」
『へへ……やった』
小さくガッツポーズを取りながら微笑んだ。
少し調子が戻ったようだ。耳飾りを揺らすように嬉しげに歩いている。
「……言いそびれましたが、タグ付けっぱなしですよ」
『えっ、うそ!?』
ホマレは耳飾りを慌てて外し、結び目を解く。
よく見るとタグには価格以外にも何やら小さく書かれていた。
『ポリエステル、真鍮……ジルコニアって石の名前?』
「そうですね。主にダイヤモンドの代替品として流通する人工石です」
『へぇ、人工……』
手の中の石は太陽光を受けキラキラと輝いている。よくあるラウンドカットが施されていて、誰もがイメージするダイヤと全く同じに見えた。
『偽物だけど綺麗だね』
「ええ。資産価値と硬度以外は遜色ないはずです」
『全然いいよ。むしろ気に入った』
多少劣っていたとしても、本物と肩を並べられる程の実用性がある。
『(私も、こうならなきゃいけない……)』
才能を持って生まれたウマ娘たちに並び立つために。
ホマレは耳飾りを改めて着けなおす。
不思議とさっきよりも耳に馴染んでいる気がした。
『トレーナー、耳飾り本当にありがとね。私がんばるから!』
「どういたしまして。健闘を祈ります」
そう意気込みながら、2人は日暮れ前の街を歩いていった。