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ラストラインを越えて

第18章 私だけを見つめて。


1つ手に取って、耳元に当てる。鏡を覗き込むけれどしっくり来なかった。 そのまま元の場所に戻す。
可愛いリボンに、チェーンのイヤリング、王冠にミニハット。
『(ピアスを選んだら……穴開けるの手伝ってくれるかな?)』
神座のことだから病院に頼めと返してくるだろう。
きっと正論しか言わない。
色々と耳に当てては戻すのを繰り返していると、横から神座が訊く。
「どういうのがいいんですか?」
『私に似合ってて、勝負服にもマッチするやつがいいな』
今のところホマレはそれっぽい耳飾りを見つけられていない。
鏡に映る自分は困り眉になっていた。
「これはどうでしょう」
即座に神座はホマレの目線より少し上の辺りにある棚に手を伸ばし、商品を1つ取った。
『星型のイヤーカフ……』
四芒星が2つ重なったような縦長いフレームの中心に石が一粒はめ込まれていて、その後ろから細身のタッセルが垂れている。
「あなたの勝負服のスカーフの留め具と同じ色合いの真鍮と、栗毛に馴染むシャンパンゴールドの房飾りです。石も無色ですから色味の干渉も起こりません。デザインも控えめで、勝負服だけでなく普段着にも合うのではないでしょうか」
『綺麗だし可愛いね』
金にも似た黄銅色の飾りを耳に添え、また鏡を覗く。
店内の照明を石が反射して淡く静かに煌めいた。
ホマレは少しの間その光を眺め、もう一度肉眼でデザインを確かめる。
『うん……気に入った、これにしよ! 』
言いながら嬉しげに天井へ掲げた。ふと手から垂れた値札が目に入る。
『……あちゃ、値段が可愛くない』
高い。ものすごく高額というわけではないものの、学生のお小遣いではあまりにも苦しい値段が書かれている。
手持ちは少なく、寮に戻ったところで足りそうもない。
『ほ、他のにする……』
払えないので棚に戻そうとするホマレの手から神座が商品を取り、レジに持っていく。
『えっ、トレーナー……? それ高いよ。無理だよ』
代わりに購入しようとしている神座に驚いてホマレが止めようとした。 カードケースを取り出しながら神座が言う。
「GⅠ出走の記念に。僕からの投資です」
『そんな……悪いよ。立て替え分すぐには返せないし……』
「返済は不要です。これを負担に感じるのなら走りで報いなさい」
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