第18章 私だけを見つめて。
『わかった。……じゃあ、行くねっ』
自分のタイミングでその場から走り出す。
柵に沿って、安定した速度を保ちつつ走っていく。
セーラーもショートパンツも身体によく馴染んでいて走りやすい。
靴もソールの高さが丁度良い。オーダーメイドのおかげか足の形に合っていて靴擦れの気配すら感じない。
『(そろそろUターン……)』
神座に指定された辺りの場所で減速し、やがて止まる。そしてまた走り出した。
外周の大振りなカーブに沿って神座の元へ向かう。
セーラーの襟が風を切り、スカーフは肌を撫でるようにはためく。胸元の金具のわずかな重みが心地良い。
コーナーが終わり、直線に入る。
視界に神座が映った。
『(走り方に違和感がないか見てくれてる……)』
フォームや脚さばき、諸々の普段との違いを見極めようとしている。
遠くて見えないはずの神座の眼差しが体に突き刺さるようだ。
『(この視線を、ずっと独り占めしてたい)』
ホマレは神座を見つめたまま、夢中で走った。 やがて元の位置まで辿り着く。
「……最後の直線で急に速度を上げましたね。走り心地はどうでしたか?」
『大丈夫そう……良い感じ!』
息を整えながらホマレが返事をする。
「よかったです。では戻りましょうか」
いきなり本番さながらのトップスピードを出したホマレに対してほんの少し訝しげに眉を上げたものの、神座はそのままトレーナー棟へ歩き出した。
ホマレもそれを追い、また隣に並ぶ。
『へへ……さっきの走り、どうだった?』
「特に異常は見られませんでした。ただ、加速の仕方が不安定だったのでレースであの動きはしないように。今度改めてスピードの調節の指導をします」
『はーい』
さっきの挙動が模範的じゃないことはホマレも分かっていた。
しかし無意識に出してしまったスピードだから指導が入るのも仕方のないことだった。
むしろ神座に一挙手一投足教えてもらえるのは嬉しい。
『(気持ちが走りに影響したんだ……)』
浮かれた気分と執着心が走りを乱した。でも、神座の元へ向かって走っているときホマレは確かな享楽を感じていた。