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ラストラインを越えて

第18章 私だけを見つめて。


『お待たせー! 見て! 似合ってる?』
振り返ると、勝負服に身を包んだホマレが神座に見せつけるように両手両足を広げて立っていた。
その表情は誇らしげで、しかしどことなく照れも見て取れる。
上から下までゆっくりと視線を走らせ、一度頷く。
「サイズは丁度良さそうですね。全体のバランスも整っています」
『そうでしょう、そうでしょう!』
その場でくるりと一回転して、胸を張る体勢でポーズを取る。
『実際に着てみたらもっと気に入っちゃった。これでGI走るのすっごい楽しみ!』
「よかったですね。走っても支障がないか確かめるために実際にコースを走ってみましょう」
『うん! トレーニング場まで競争ね!』
そう言ってホマレは通路に出てスタートの構えを取った。
「廊下では走らないでください。さっき理事長秘書がそっちに行ったので見つかったら足止めを食らいますよ」
『ちぇっ。じゃあ並んでいこうか』
神座と隣り合って通路を歩いていく。
ホマレは鼻唄を歌いながら胸元のスカーフを触ったりスカーフリングを弄ったりした。
『カッコいい赤色だし、金具の形も素敵。このデザインにして本当に良かった』
「そうですか」
相槌を打つ神座を見上げる。気のない横顔は進む先に向けられていた。
『(トレーナーの目から着想を得たって言ったら呆れられるかな)』
神座出流の真っ赤な瞳と独特な形の虹彩。それをスカーフとリングに当てはめた。
ホマレなりの願掛けのようなものだ。
『(私の走りを……ずっと見ていてほしい)』
そんなことを思いながらトレーナー棟を出て、トレーニング場まで向かった。
「コースは埋まってるので外周を使いましょう。直線とコーナー……右回りと左回りを想定して、向こうまで行ったら引き返し同じようにこっちまで走ってきてください」
『おっけー』
軽くストレッチをしながらホマレが返事をする。
「着心地が悪かったり走りにくかったりしたら言ってください。靴の具合も確認しながら走るように」
あらかじめ装着されていた蹄鉄のつけ心地がちょっと気に入らないけれど、少し走る分には問題はなさそうだ。
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