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ラストラインを越えて

第18章 私だけを見つめて。


「これが納品書です。まずは内容物が一致しているかどうか確認し、縫製やデザインに不備がないか見てください」
『はーい』
衣類カバーを外し、中身を出したホマレは込み上げる嬉しさのあまりに2回ほどその場で飛び跳ねた。
発注書に描いた物そのままの衣装がそこに収まっている。
『見て! 私の勝負服だよコレ!!』
白いノースリーブセーラーを自身の体に重ねながら神座に見せつけた。
「わかっています。周りの部屋や通路に響くので跳ねないでください」
『あはは、ごめんなさーい!』
注意されても高揚感が勝ち、はしゃぎながら内容物を並べていく。
『インナーと、セーラーとスカーフとショーパン……靴とソックスガーターとスカーフリングもちゃんとあるね』
「そうですね。縫製なども特に問題なさそうです」
糸調子の狂いやほつれが無いか確認した神座がテーブルに置く。
『じゃあ……着ていい!?』
「かまいません。今日のうちにサイズの確認をしましょう」
神座の返答を聞くや、ホマレは嬉しそうに衣装をかき集め――
『すぐに着替えるから、ちょっとだけ待っててね?』
そう言って神座をトレーナー室から閉め出した。
「…………」
廊下に1人で立ち尽くす神座は、中で悪戦苦闘するホマレの呻き声を聞きながら扉に背凭れる。
ウマ娘の更衣室や着替えに使えるような広い個室のトイレはここから少し遠いはずだ。だからトレーナー室で着替えるのが一番合理的ではある。
神座はやや納得しつつホマレを待つことにした。
「お疲れ様です。神座トレーナー」
腕を組んで佇んでいると、通路を通りがかった駿川たづなに声を掛けられた。
「お疲れ様です」
神座が居ずまいを正しながら挨拶を返す。
「部屋の前でどうされたんですか?」
「……着替えを待っています」
「ああ、キトウホマレさんですか。そう言えば勝負服が納品されていましたね」
扉についた磨りガラスの向こうを覗き込むように体を傾け、たづなは苦笑した。
「補正が必要だったら窓口に届け出てくださいね」
そう言い残しそのまま歩き去っていく。
「……」
神座は短く息を吐いて体勢を元に戻した。
背後では騒がしい着替えが終わり、靴底をトントンと鳴らす音が聞こえている。 そしてすぐに扉が開かれた。
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