第2章 春
ゆうなが言葉に詰まった瞬間――
「悟。そうやってゆうなをからかうの、やめたらどうだ。」
廊下から穏やかな声が届く。
ゆうなが顔を向けると、教室の入り口には夏油傑が立っていた。
ゆったりとした立ち姿で、目元は微笑んでいる。
「ゆうな、さっき言ってた資料。持ってきたよ。」
「あっ、夏油くん……ありがとう!」
「どういたしまして。……硝子、あんまり吸いすぎるなよ。」
「ハイハイ、お説教お疲れ様〜。」
硝子はしっしと夏油の方を見ない
一方、五条は夏油にジト目を向ける。
「……傑さぁ、なんでそんなタイミングよく来るの?」
「ゆうなの様子を見に来たんだ。午前任務の後、少し疲れてたみたいだったからね。」
「はぁー?ゆうなの心配すんのは、“俺の”特権なんだけど?」
「……その“特権”って何だ?」
夏油の目が少し鋭くなるが、声はあくまで穏やかだ。
教室の空気が一瞬ピリつくも、ゆうなが小さな声でぽつりと呟いた。
「……ふたりとも、ケンカしないで……」
それだけで、二人の間の空気が少しだけ和らいだ。
傑はふっと表情をやわらげ、ゆうなに微笑みかける。
「ごめんね、ゆうな。」
「……っ!」
傑の微笑みにゆうなの胸はどきりと高鳴る。
でさ〜と硝子が別の話題を振り、またおしゃべりが始まった。