第2章 春
数週間後
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「ふぅ〜〜〜、やっと今日の座学終わったぁ~~……マジつかれた」
硝子は机に突っ伏すようにして、伸びをした。その指先にはいつの間にか火のついたタバコ。
「それ……教室ではダメなんじゃ……」
ゆうなが苦笑いを浮かべながら、そっと自分の席から椅子を引いて隣に座る。
「先生いないからセーフ。てか、私のリラックスタイムを邪魔しないでー」
「まぁ、今更だったかなぁ…」
「 ……でさ、ゆうなってさ、五条と幼なじみなんでしょ?」
「う、うん……まあ、小さい頃から割と一緒で……仲良くしてもらった、かな?」
「へぇ~?五条、あれでけっこう嫉妬深いし、独占欲強そうじゃない?」
「えっ!そ、そんなこと……ないよ、たぶん……」
「んー?じゃあなんであんなガン飛ばしてくるの?夏油とゆうながちょっと話してるだけで、睨んでるっていうか……」
「え……見てたの?」
「全部見てるよ~。だって、面白いじゃん。夏油もさ、あれでけっこう甘々な目でゆうなの事見てたし?」
硝子はいたずらっぽく笑って、タバコの煙をゆっくり吐き出した。
「ゆうなってさ……もしかして、夏油のことちょっと気になってる?」
「え、えっ……ちが……わない……かも……」
「ほら~やっぱり!やば、青春してる~!!」
硝子はゆうなの肩をバシバシ叩いて、はしゃぐように笑う。
「でもね、忠告しとくよ?五条は……マジで、めんどくさいよ」
「……どういう、意味?」
硝子の目がふっと真剣になる。
その茶色の瞳は、さっきまでの茶化しとは違う温度を帯びていた。
「一回“自分のもの”って決めたら、絶対に手放さないタイプ。しかも、手段は選ばない。優しさも独占欲も、どっちもとんでもないレベルだからさ」
「………ぇ」
「ま、でも今は普通に幼なじみだし、何も起きてないんでしょ?なら私の気にしすぎかもだけどね」
「……うん。ありがと、硝子ちゃん」
「どーいたしまして」
その後も、硝子の“夜中のコンビニに付き合わせる計画”とか、“教師陣の陰口会”で盛り上がるふたり。
その姿は、年相応の女の子らしくて――でも、知らず知らずのうちに、大きな渦に巻き込まれていく一歩を踏み出していた。