第2章 春
春の光が差し込む高専の校舎。
その中でも、1年教室の扉が、静かに開かれる。
「――ふぁあ……やっと着いたね、悟くん」
「マジで疲れた。つーか、なんで高専ってこんな山奥なんだよ」
制服の袖を乱暴にまくり上げながら、五条悟があくび交じりに言った。
その隣には、制服を少し着崩した少女―― ゆうな。長いまつ毛が春の光を受けて揺れていた。
教室にはすでに、二人の生徒が座っていた。
「おはよう」
黒髪をゆるく束ねた夏油傑が、静かに笑った。
その声音にはどこか“品”のようなものが滲む。
「あ!女の子いるじゃん!!」
教室の隅、窓辺に座っていた茶髪の少女――家入硝子が、タバコをくわえながらそう言った。
その目はすでにゆうなを見つけてぱっと輝いていた。
「え~~!かわいい!男に囲まれると思ってたけど女の子いるのさいこーじゃん!
ね、名前は??あたし家入硝子!硝子でいいよ」
「えっ、あっ……ゆうなです!硝子ちゃん…よろしく!」
「ほら、こっち座って!」
突然手を引かれて席に着かされるゆうな。
その隣では悟がムスッとした顔で夏油を見ていた。
「……何ニヤニヤしてんだよ」
「別に。ただ、幼なじみと一緒に入学って……仲がいいんだなって思っただけさ」
「ふーん」
一方でゆうなは、夏油の優しい眼差しがほんの少しだけ気になっていて……
それに気づいた悟の指先は、ピクリとわずかに震えていた。