第5章 夏
少し離れた岩場の近くには、小さな潮溜まりや貝殻が転がっていて、まるで秘密基地のようだった。
「ゆうな、こっち。ヒトデがいる」
しゃがみ込んだ夏油が指差す先、小さなヒトデが岩陰でじっとしている。
「わぁ、本当だ。初めて見たかも」
ゆうな はつんつんっとヒトデを触っている。
「ここ、なかなかいいね。静かだし、落ち着く」
「ね!悟くんもいないし」
しばらく沈黙が流れたあと、ゆうながぽつりと呟いた。
「……今日、来てよかったな」
「そう思ってくれて、よかった」
「夏油くんが一緒だから、楽しいのもあるのかも」
「それは、私も同じだよ」
夕方が近づくにつれて、空の色がほんの少しだけ柔らかくなる。
潮の香りと蝉の声が混じって、時間がゆっくりと流れていく。
その頃、少し離れたところで――
「硝子ー、スイカ食べよーぜ」
「持ってきたのお前だろ。お前が切れ」
「え〜〜っ! せっかくなら女子がやってくれるとこ見たいじゃん〜?」
「お前がやれっつってんの」
パシンッと手の甲をはたかれ、悟がいたっと手を引っ込める。
「こわ…硝子、地味に攻撃力高ぇよな」
「は? 今さら?」
そんな二人のやりとりを、少し離れた岩場からゆうなと夏油が見ていた。
「…なんか、ああいうのもいいよね」
「うん。あれはあれで、彼ららしい」
「ね、来年も、また来れるかな?」
「来年じゃなくても、また来よう。いつでも」
「うんっ!」
ふたりの影が寄り添うように伸びて、砂の上に優しく落ちていた。