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泡沫の夢【呪術廻戦】

第5章 夏


夜の砂浜は、昼の喧騒が嘘のように静まり返っていた。
海風が火薬の匂いをさらっていき、残されたのは残りわずかの手持ち花火の袋と、細く儚い線香花火だけ。
「最後、やるなら今がベストタイミングだな」

悟がそう言って火を灯すと、硝子が肩をすくめて

「しんみり終わる感じか」

と笑った。
ゆうなはそのやりとりを見ながら、ふと隣にいた夏油を見上げる。
「ねぇ夏油くん、線香花火…一緒にやらない?」

「うん。いいよ」
ふたりは悟達から少し離れた波打ち際へと歩き出した。
裸足で踏む砂の感触が柔らかく、どこか頼りなくて、緊張で心が少し浮いていた。

「あ、あれ。ちょっと待って」

風が少し強くて、ライターの火がなかなかつかない。
何度か試していると、後ろから傑の手がそっと添えられた。
「貸して。……こうやって風を遮ると、つきやすいよ」
ふたりの手が重なって、小さな火が灯った。
線香花火の先がぱち、と音を立てて、ゆっくりと小さな火花を咲かせる。
「……綺麗だね」

「うん。……でも、花火より、ゆうなの顔を見ていたくなる」
そう言って傑はゆうなの方を見る

「え……っ」
目が合って、思わず顔を背けたくなったけれど、傑の視線は静かに、まっすぐだった。

何も言えないまま、ふたりの間に沈黙が落ちる。

ただ、線香花火の小さな火花が命のように揺れていた。
ふと、その火花がぽとりと落ちて、風にさらわれていく。
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