第5章 夏
電車がゆっくりと停まり、車内にアナウンスが流れる。
「まもなく終点、〇〇海浜公園前〜」
「おっ、着いた着いたーっ!」
悟が立ち上がって大きく伸びをしながら、窓の外をのぞき込んだ。
「わ、ほんとに海の匂いする……」
ゆうなは窓越しに広がる青空と、遠くにちらりと見える海を見て、思わず声を漏らす。
「ここから少し歩けばすぐだよ。駅前にレンタルショップもあるって聞いたし」
傑がそう言いながら、さっと荷物を肩にかける。
「ビーチパラソル借りるなら早い方がいいかもな」
硝子は携帯を確認しつつ、さっさとホームへと降りていく。
駅を出ると、もわっとした夏の空気が体を包んだ。
セミの声、青い空、そしてほんのりと潮の香り。
それだけでテンションがぐんと上がる。
「ゆうな〜、早く海行くぞー!」
悟が振り返って手を振ると、ゆうなは小走りで近づいていった。
「うわ……すごい。ほんとに海だ……!」
「夏の海、って感じだね」
傑がその隣で目を細めながら呟く。
視界いっぱいに広がる砂浜と、遠くできらきらと光る波。
人は少なめで、最高のタイミングだった。
「とりあえず、着替えよっか」
硝子がポンとゆうなの背を押す。
「うんっ、2人とも行ってくるね!」
ふたりは更衣室の案内板を見つけて、足早に向かっていった。
その道すがら、ゆうなが小声で硝子に話しかける。
「……ねえ、硝子ちゃん」
「んー?」
「や、やっぱ恥ずかしくなってきた」
「今更?もう諦めて腹くくんなー。そんでクズ共に見せつけてこい」
「えー…」
「でも、夏油なら褒めてくれんじゃない?」
「うん…悟くんよりかはね」
くすくす笑いながら、更衣室に消えていくふたり。
「女って楽しそうでいいなあ」
悟が男子更衣室に向かいながらぽつりとこぼすと、傑が静かに応じた。
「ああ。楽しそうだね」
「ってか傑、あれ持ってきた?」
「もちろん、悟が子供みたいにやりたいと騒いでたからね」
「うるせーよ!」