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泡沫の夢【呪術廻戦】

第4章 任務


任務を終えた二人が高専の門をくぐる頃には、空はすっかり朱に染まっていた。
「思ったより時間、かかっちゃったね」
脇腹を押さえながら、ゆうなが笑う。制服の下には応急処置で巻かれた包帯が覗いていた。
「無理して笑わなくていい。……痛むだろ」
「うん、ちょっとね。でも、平気」
そんな彼女に夏油は苦笑を浮かべると、歩幅を合わせて進みながら言った。
「とにかく、硝子を探そう。君の怪我、ちゃんと診てもらわないと」
「硝子ちゃん、今どこにいるかなぁ。保健室かな?」
「行ってみよう。この時間だと、まだ煙草休憩してるかもしれないけどね」
本館の廊下を歩きながら、夏油はふと足を止めた。
「待って。あそこ──明かりがついてる。たぶん……」
保健室のドアが半開きになっており、奥から煙草の香りがほのかに漂っていた。
「硝子ちゃん…」
ドアを開けると、椅子にもたれかかって煙草をくゆらせていた硝子が、目を細めてこちらを見た。
「なに。帰って早々、もしかして怪我?」
「うん、ごめん。ちょっとやられちゃった」
ゆうなが照れくさそうに笑いながら制服の裾を持ち上げると、硝子はすぐさま立ち上がり、灰皿に煙草を押し付けた。
「ゆうなは座って。夏油、消毒取って」
「わかった」
手慣れた動作で消毒し処置を始める硝子の手は思いのほか優しく、ゆうなは小さく息をついた。
「ったく。夏油と二人で任務行って、何怪我してんのよ」
「…本当にそうだね」
夏油が苦笑交じりに返すと、硝子はちらりと彼を見て、薄く口元を緩めた。
「まぁ、あんたが一緒なら、死にはしないって信じてたけど」
「それは光栄だね」
「ふふ、心配してくれてありがとう、ふたりとも」
ゆうなが少し照れながら口にすると、硝子はにこっと笑ってガーゼを押さえた。
「これで良し。はい、もう今日は安静ね」
「うん。硝子ちゃん、ありがと…」
「礼なんかいいから、もうちょい自分の体、大事にしなさい。私に手間かけさせんなー」
「わかってる〜」
そう言いながら、ゆうなが小さく笑うと、夏油が静かに立ち上がる。
「じゃあ、部屋まで送るよ」
「えっ、いいの? じゃあ、お願いしよっかな」
ゆうなが立ち上がるのを見届けながら、硝子は再び椅子に座り直した。
「ったく、青春かよ……」
そう呟いた彼女の表情には、どこか微笑ましさがにじんでいた。
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