第4章 任務
都内の外れ、取り壊し予定の大型ショッピングモール跡地。
すでに簡易帳が張られ、そこは呪霊の気配が重く沈んでいた。
「……ここ、空気がすごく重い。夏油くん、ほんとに一級?」
ゆうなが警戒しつつ、周囲に呪力を巡らせながら声をかける。
「一級呪霊、間違いないよ。構造が複雑な場所は奴らの縄張りになりやすい。気を引き締めていこう」
夏油はいつもの穏やかな声で言いながら、数体の呪霊を呼び出して構えを取る。
任務は二人きりだが、これまで何度か共に戦ってきたことで、連携には慣れていた。
「うん、私は後方からサポートするね」
「任せたよ、ゆうな」
その言葉と同時に、吹き抜けの暗闇から異形の呪霊が姿を現す。
眼球がびっしりと並んだ顔、太く膨れ上がった片腕が地面を抉りながら迫る。
「っ、来る!」
夏油が呪霊たちを前方に放ち、応戦する。ゆうなは距離を取りながら、術式で夏油の呪霊を強化・補助していくが──
「ッ……!」
背後から飛び出した別の腕に反応が遅れ、咄嗟に飛び退いたが、脇腹を爪がかすめる。
「くっ……っ!」
制服の一部が裂け、鮮やかな赤が滲んだ。
「ゆうな!」
「だ、大丈夫……ちょっと、切れただけ……」
ゆうなが苦笑いを浮かべると、夏油は静かにその前に立った。
「下がっていて。私が、こいつを祓う」
一見穏やかなその声に、ゆうなは背筋がぞくりとするほどの冷たさを感じた。
彼が指を弾くと、複数の呪霊が一斉に呪霊本体へと襲いかかる。
飛行型が目を潰し、地走型が脚を絡めとり、鋭利な刃を持つ呪霊が一閃する。
「……私の大切な仲間に、よくも手を出してくれたね」
静かな怒りがにじむ夏油の声とともに、最後の一撃が呪霊を粉砕した。
あたりが静寂に包まれる中、夏油は手を差し伸べる。
「立てるかい?」
「うん……ありがとう、夏油くん。ほんと、助かった……」
「怪我、大丈夫か? すぐに硝子のところへ連れて行こう」
「うん。……でも、ちょっとびっくりした。夏油くん、あんな怒った声、初めて聞いたかも」
ゆうながそう言って微笑むと、夏油は照れたように目を細めた。
「私も、驚いたよ。……自分でもね」
彼の静かな眼差しに、ゆうなの胸がふと高鳴る。
(なんか、ドキドキしてる……夏油くんのこと、やっぱり……)