第3章 夜
──夜風が、少しだけ冷たくなってきた。
「……そろそろ戻ろっか」
硝子が手に残った吸殻を携帯灰皿に入れて、ふわっと背伸びをする。
「うん」
「そうだね」
ゆうなと夏油も頷いて、3人は並んで歩き出す。
高専の敷地はすでに外灯が灯り、夜の静けさがゆっくりと空気を包んでいた。
「……それにしても、今日の呪霊。偶然にしちゃ、ちょっと気配が濃かったね」
「私もそう思う。……夏は忙しくなるしそのせいかもな」
夏油の言葉に、硝子がふーん、と呟く。
「でも怪我しても硝子ちゃんいるし安心だね!」
「はー、ゆうなは私の事なんだと思ってんだか」
夏油はそんな二人の様子を見ながら、ふと口元を緩める。
(……本当に、楽しそうだな。君の笑顔は、ずっと守っていたい)
夜の寮へと続く道は静かで、月が照らす石畳が白く輝いていた。
やがて、3人は寮の玄関へとたどり着く。
中からはうっすらと灯りが漏れ、誰かの話し声が遠くに響いていた。
「さてと、お風呂は入ったし、アイスも食べたし──あとは寝るだけだね」
硝子がぽんっとゆうなの背中を軽く叩く。
「えー、もうちょっとおしゃべりしたいなぁ」
「私の部屋、来る?」
「行く!夏油くんもくるー?」
ゆうながふと隣を見上げて声をかける。
夏油は少しだけ微笑んで、首を横に振った。
「今夜は遠慮しておくよ。……女の子たちの時間を邪魔するのも無粋だしね」
「え〜、なんか照れるじゃんそれ〜」
硝子が冗談っぽく笑いながら、ゆうなと二人、スリッパを鳴らして廊下の奥へ。
「じゃあ、おやすみ、夏油くん」
「おやすみ、ゆうな。……ゆっくり休んでね」
そうして、夏油はその場に残され、寮の窓から夜空を見上げた。
星が静かに瞬いていた。
(……いつか、本当に君から“好き”って言ってくれたら。きっと、私は)
その想いは、まだ静かに胸の内にしまわれたままだった。