第15章 熱に浮かされて

オフィスに戻った凜桜の手には、コンビニの袋がもたれている。ドアを開ければ、住吉がまだデスクチェアにすわったままとはいえ、どことなく観念した様な表情で凜桜を見つめた。

「…青木社長との予定、動かしたろ」
「はい」
「……それも相談なく勝手に」
「はい。動かしました。」

淡々と告げる凜桜。何も悪い事はないと主張するように引くことはなかった。そんな姿に住吉も思わず噴き出した。

「…凜桜がそこまで怒るとは、な」
「倒れられたら困ります。」
「それは会社が？」
「…『も』ですけど…」

僅かに凜桜の声が震えた。ただただ住吉の体調が心配だった。こうでもしないと無理してでも会議に行く。そうすれば体調不良は長引くばかりだ…それを心配していた。

「…解ったよ。今日は言う通り休む」
「え？」
「『え？』ってなんだよ。そう動かしたのは凜桜だろ」

そう言いながらも住吉は小さく笑えば鞄を持って席を立つ。

「…帰る。」
「解りました。」
「諒、悪い、あと頼んだ」
「はーい」

住吉はオフィスを出て、出勤してきたばかりの道を帰っていくのだった。

「…凜桜ちゃん？」
「はい」
「ｸｽｸｽ…心配でしょうがないって顔」

そういう諒は凜桜の横に来ていた。

「…余計な事かもとは思ったけど…無理してほしくない…って言っても先方が無理って言ったら今日だったんだけど…」
「代表言ってたよ？」
「へ？」
「凜桜には敵わないな…って。甘えそうになってマジ困るって」
「へ？」
「さっきからその反応も面白いけど」
「…だって…代表が？」
「あぁ。きっとポロポロ出た言葉だろうから知られたくはないんだろうけど？」

そう話している諒のその表情もふわりと柔らかかった。