すき…キス…ミルフィーユ~秘書は代表と絶賛同居中!~
第11章 話す覚悟
帰宅する間。一切二人の間に言葉はなかった。何か言葉を発すればすぐにでも泣いてしまいそうな凜桜と、そんな凜桜にすでに気付いている住吉。だからこそ、自宅に着いてからでも問題ないとの判断だった住吉だった。
最寄り駅についた時だ。
「…ッッ」
「どうかした?」
袖をクンっと引っ張る様につまむ凜桜に対して視線こそ合わせないものの、住吉は声をかける。
「ごめんなさい…少しだけ…その…」
「ハァ…」
腕を軽く振り払う住吉。しかしその直後に凜桜の左手を掬い取った。
「…ッッ…」
キュッと指を絡める住吉に甘える様に凜桜もまた握り返す。家路につけばどちらからともなく手を離す。
「…風呂、先に入ればいい」
「…いえ、住吉さん先にどうぞ」
そういわれて住吉は先に入る。その間に凜桜は掃除機をかけ、洗濯物をしっかりと畳む。
その光景だけ見れば同棲カップルにすら思えるものだった。
「…ハァ…」
洗濯ものを畳む手がふと止まる。繋がれた左手がいつも以上に熱を持つ。
「…住吉さん…」
キュッと握りしめる手。柴田をひねり上げる住吉の行動、そして何よりも頼っていいと言ってくれた言葉。
上司として、秘書となってわかった住吉の多忙さ。そんな仕事の力になりたいのに、こんな風に迷惑をかけるだけの自分より他の適任者がいただろうに…そう一度思ってしまうと、『そう』としか思えなくなってくる自分にも腹が立ってくる…
いっそのこと、面倒くさい、もういらない…
そう言ってくれた方が楽だった…でも住吉が手を離さないでいてくれたことがそういう自身に突き付けられた『逃げる選択』を選ばせないでくれた。
「…話さないと…」
住吉が風呂を後にし、凜桜が代わりに入る…そして早々に浴室から上がればそこには住吉がビールを開けて待っていただのだった。