すき…キス…ミルフィーユ~秘書は代表と絶賛同居中!~
第9章 知らされた距離感
そしてそれから少し経ち、凜桜がSMYコーポレーションに入社してから1か月がたった。そんな日の夜。
「あの住吉さん?」
……しかしリビングにいるはずのその背中から返事は聞こえなかった。
「…?どうかしたのかな…」
ぽつりとつぶやくかどうかの声を落として凜桜はそっと近づく。そっと前に回り込めばソファで小さな寝息を立てている住吉を垣間見た。
「…ね、てる?」
パソコンを抱えたままの住吉の手からそっとノートパソコンを取り、テーブルに置いてスリープ状態へと直した凜桜。起こさないように…とブランケットを持ってきてかけた時だった。ぐいっと引き寄せられ、抱きしめられる状態に拘束された。
「…え、っと…住吉さん…?」
優しいシャンプーの香りも、鼻をくすぐる様に鼓動を早まらせる。ドキドキとしていく鼓動を確かに自覚し始めた時だった。
「…ン…ゆり、か…」
「え…?」
そう確かに住吉は別の女性の名前を呼んだ。もしこれが凜桜と住吉が付き合っているなら、その先の婚約者であったりするならば…浮気かと疑うは十分すぎる事態だった。それでも…
今の二人の関係はただの上司と部下…
家をなくした自身にただ部屋を間借りさせてくれているだけ…
そう思えば自然ととるべき距離が見えてくる。
「…そっか…」
小さく笑って、凜桜は思い立ったように洗い物を済ませるとソファの近くのヨジボーに腰かけた。スマホを見ながら近くの物件を探し始める。