すき…キス…ミルフィーユ~秘書は代表と絶賛同居中!~
第6章 押し殺す声
凜桜の耳に、心に深く突き刺さる様にして残った棘はたった一つ。
『住吉さんには秘密だね』
そう耳元でささやいた川端の声だった。タクシーを捕まえ、乗り込んだものの、膝の上できゅっと手を握りしめているのが精いっぱいだった。
気丈にしていないと…最低限にしておかないと…そうしないと…
住吉さんに気づかれたら…
「…ッッ…(ごめん、なさい…)」
その謝罪が住吉に対してのものなのか…それとも他の物への謝罪なのか…それが何かすらもわからないままに通話を切り、住吉からの着信履歴が並ぶスマホを見つめていた。
鳴ったタイミングで本当は出たかった…
そう思う心と裏腹にあの時に出ていたらきっと何も可もが崩れてしまっていた…そう思う感情が交じり合う。
「・・・何も…何もなかった…何も」
そう自分で言う事で…思い込む事ですべてを流そうと考えた。というよりも流さなければこのまま帰られない。住吉と住処を共にしている事が今日ほど苦痛に思うのはなかった。
少ししてタクシーは雅の指定した所に停まる。
「こちらで大丈夫ですか?」
「はい、…ありがとうございます」
「こちらこそ」
そうしてタクシーを降りた時だった。
「凜桜?」
ふいに後ろから声をかけられた。その声の主に凜桜自身今一番会いたくない存在だった。
「…す、みよし…さん…?」
「俺も今帰りだ。」
「おかえりなさい」
「ん、ただいま」
「……あの、私…」
「どうかしたか?」
「…いえ」
「なんでもないって顔じゃねぇけど?」
「それは…」
「とりあえず入るぞ?」
そうして二人そろってエントランスへ入り、家に向かっていくのだった。