第1章 諸伏警部と陽気な彼女
「押してだめなら押しまくるの! 貴方、とっても美人だから隣の警部さんもイチコロよ!」
「いやっ、えっと、その」
「お誘いは強かかつ大胆に──」
「秋穂さん。女性からのお誘いの仕方を上原さんにお伝えするのはよろしいのですが、伝わっていなさそうですよ」
「……あら、本当ね」
自分の世界から帰ってきたらしい秋穂さんは、目の前で頭から煙が出てきそうな上原さんを見て「あらあら」と他人事のような感想を述べている。上原さんには刺激が強すぎたようですね。まあ、ここまで過剰に反応しているところを見るに勘助くんへの気持ちは──そういうことなんでしょうが。どちらが、というわけではないが早く素直になればいいものをと思わずにはいられない。
「さて、随分話し込んでしまいましたし。そろそろ行きましょうか。秋穂さん」
「そうね! じゃあね、お二人さんっ。次に会うたときはダブルデートしましょ!」
私の腕に自分の腕を絡ませながら、ひらひらと二人に手を振った秋穂さんと真っ直ぐ私の車へと向かう。第三の爆弾が彼女によって投下されたことは言わずもがな。このあとどうなったのかは明日聞いてみることにしましょう。
助手席の扉を開けて彼女をエスコートすれば最上級の笑顔とお礼が返ってくる。それだけで生きててよかったと、そう思えるくらい私にとって彼女の存在は大きい。
自分も運転席に乗り込んでシートベルトをする──前に彼女の唇を拐う。掠めただけのそれにすら嬉しそうに笑ってくれる秋穂さんが実年齢より幼く見えてとても可愛らしい。
「高明くんはお家まで待てないのかなー?」
「待てないのではなく、待ちたくないのです。貴方が東京へ行ってから随分お預けをくらったので」
「数日じゃないの」
「数日も、です」
「私がいないとダメなのね」
「違う。貴方が僕をダメにした」
そう言いながら抗議の証に噛みつかんばかりの勢いでキスをする。何度か角度を変えながら彼女の唇を楽しんでいると、たしなめられるように下唇を甘噛みされてしまったので仕方なく少し距離を取れば、熱を孕んだ瞳に射ぬかれた。背筋がぞくりと粟立つような、何とも言えない高揚感。秋穂さんにこんな顔をさせているのが僕だと思うだけで、こんなにも気分がいいなんて。