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【DC】短い夢を見た【諸伏高明】

第1章 諸伏警部と陽気な彼女


「いつこちらに帰られるのですか?」
『あと一時間くらい!』
「おや。お早いお帰りですね」
『うん、早く会いたかったから。ソッコーで新幹線のチケット取った!』
「それはそれは」
『ね、高明さん』
「どうされました?」
『今日って……定時に終わる?』
「ええ。このまま何も事件が無ければ、ですが」
『ほんと!?』

 明らかにテンションの上がった声色に肯定の意を唱えれば、見えるはずない彼女のガッツポーズ姿が脳裏をよぎる。こんなに喜んでいるのだから、今日は何としても定時で上がらなければ。緊急通報が入らないことを願わずにはいられない。

『じゃあ県警の駐車場で待ってるね』
「何かあっては危ないので中で待っていてください。受付の方に話は通しておくので」
『心配性ね』
「心配されているうちが華とも言いますし」
『え? もしかして喧嘩売られた?』
「──あなたを心配する権利、生涯僕だけにくださいね」
『目の前で言われたかったから、あとでもっ回言って? 絶対にときめく自信あるから』
「お望みなら何度でも」

 そのあと一言二言話をし「それではまた」とと別れの挨拶をして通話を終了する。電話越しに聞こえていた、いつもと少しだけ雰囲気が違って聞こえてきた愛らしい彼女の声を噛み締めながら、相変わらず感じる熱心な視線にそちらを振り向けば、待っていましたと言わんばかりに上原さんが口を開いた。

「今の誰ですか!?」
「知り合いの女性ですよ」
「こ、恋人だったり……」
「さあ、どうでしょう」
「どう考えても恋人だろ。なあ? あっきー」
「君より先に、僕の方へ春が訪れたようですね? 敢ちゃん」

 バチバチと。見えないはずの火花を散らしながら、今にも飛びかかってきそうな勘助くんににこりと返す。思惑通り「敢ちゃんって呼ぶな!」と吠える勘助くんはなんとまあ素直なことか。顎に手を当てながらふっと笑みを飛ばせば、彼の目尻は更につり上がっていった。
 屈強そうな顔がより一層屈強そうになっていますね。このまま外を出歩けば職務質問されかねないな。そんな不躾なことを考えながら外回りへと行く準備をする。
 この暑さの中外へと赴くのは億劫だが、退勤後のことを考えればその歩みは少しばかり軽いものへと変化した。
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