第1章 諸伏警部と陽気な彼女
軽くスマホを操作してから上原さんの質問に答える。それが彼女の欲しい答えかはいささか微妙ではあるが、嘘は言っていない。嘘は。
私の返事に痺れを切らした勘助くんが案の定突っ掛かってきたのでにこりと笑いながら質問を質問で返してみると、彼は至極嫌そうに顔をしかめた。大変わかりやすい。
別に隠すようなことでもなければ、むしろこのまま二人に勘違いされて私がアイドルにはまっている、なんて根も葉もない噂を吹聴されても困るので……そろそろ答えを教えてあげようか。そう思って口を開いた瞬間、電子音が辺りに鳴り響く。その出所は私のスマホで、着信が来ていることをけたたましく知らせていた。
「はい、諸伏で──」
『あっきー! 私私!』
スピーカーにしていたわけではないが、電話口から盛大に漏れだしたハツラツとした女性の声──しかも普段聞かないようなあだ名で私を呼ぶその存在が現れたことで、勘助くんと上原さんが凄い勢いでお互いの顔と私を交互に見ている。
面白い状況だ。と感じた私は、通話音量を下げることなくそのまま女性との会話を続けることにした。
「オレオレ詐欺ならぬ、わたしわたし詐欺ですか?」
『えっ!? ち、ちがうよ!』
「ふふ、冗談ですよ。スマホにフルネームが表示されていたので、ちゃんとわかっています」
『……からかったわね』
「すいません。貴方のくびれたウエストと引き締まったヒップラインが全国放送で世の男性に晒されたのかと思うと、年甲斐もなく妬いてしまいまして」
『……からかっているわね』
「いえいえ。本心を述べたまでです」
楽しく談笑している私を、顎が外れるんじゃないかと思うくらいの大口を開けて唖然と私を見ている勘助くんと目が合う。今、目の前で起きているこの状況を飲み込めないでいるようだ。少し意地悪く口角を上げれば、彼の口の端がひくつくのが見えた。