第1章 因果律の彼方に
気になっていたことがあった。今日を逃せば、もう尋ねる機会はないかもしれない。
「……君の仕事に、興味がある。いつも何か執筆していたが……一体、何を?」
彼女は目を大きく見開き、私を見た。
「すまない。無遠慮だったかもしれない」
「い、いえ……こういうのに興味を持ってもらえるのが初めてで、驚いてしまいました」
「“こういうの”と、言うと?」
「はい。私は、治療の傍ら薬草の研究をしています」
「ほう。それは興味深い。もう少し詳しく聞かせてもらえますか」
彼女の目が輝いた。
彼女は、薬草に含まれる有効成分を単離する研究に取り組んでいるという。料理の技法から着想を得た分配平衡という方法を用い、成分を抽出し、精製する……説明を聞きながら、私は感心していた。オイル、アルコール、熱湯と、薬草ごとに適した単離方法があるらしい。
やがて彼女は、今までで最も苦労した薬草や、現在進行中の試みについても熱を込めて語った。
だが、ふいに自らの饒舌に気づいたのか、慌てた様子で頭を下げる。
「申し訳ありません、自分の話ばかり……」
「いや、実に興味深い内容でした。それにしても……」
気づけば、私の口角が微かに緩んでいた。
「これほど長い時間を共に過ごしておきながら、あなたが血の通った人間らしい表情を見せたのは、今日が初めてだ」
彼女はぱっと顔を赤らめる。
「バデーニさんこそ、初対面であれほど警戒されたではありませんか。お互い様ですよ」
「それは……手厳しいな。失礼いたしました」
楽しげに研究の話をする彼女を見て、私は悟る。──そうか。私塾の連中と研鑽を積み、議論していた頃、我々もこのような表情をしていたのか。
「私、おかしかったですよね。分をわきまえずに興味のない話を長々と」
「いいえ。私は研究者ですので……いや、過去形が正しいか」
「えっ? 研究をされていたのですね! どのような分野を?」
「……天文学を」
「天文学! 素敵です。私、薬草の栽培で、追肥や種まきの時期を見定めるのに使えると思って、少し興味があって……具体的にはどんな研究を?」