第1章 因果律の彼方に
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翌朝、再びJ診療室を訪れる。
その日は薬の調製中だったのか、私は椅子に座ってしばし待たされた。
彼女は最低限の挨拶しか交わさず、目も合わせようとしない。昨日の私の態度が気に障ったのだろうか。
私は所在なげに室内を眺め、時折、彼女の動作を観察していた。
台所では何やら煮詰めている最中で、その合間に十数本の小瓶を机に並べ、紙に何かを記している。書物を開き、何度も見比べながら、思案に沈む姿。
淡々とした手当。しかし、昨日とは異なる薬が塗布されたことは、匂いでわかる。素人の私ですら。
三日後。再訪すると、彼女は写本のようなことをしていた。だが近くに原本は見当たらず、おそらく自らの考えを文章にしていたのだろう。
この日もまた異なる薬での手当て。
五日後、一週間後――
私は、言われるままに診療室を訪れていた。
そんな日々が、半月ほど過ぎた頃だった。
「今日で最後ですね」
ガーゼを剥がしながら、彼女が言った。
「あとは自然治癒に任せて問題ありません。長い間ご足労をおかけしました」
「そうですか」と応じた声が、掠れていた。
「何か心配事でも?」