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軌道逸脱と感情の干渉について【チ。/バデーニ】

第8章 再構成された信仰仮説



 *

 ある夕暮れ、クラボフスキさんが書斎にやってきた。手に、見覚えのある革表紙の小さな手帳を抱えて。

「今、彼女の部屋を掃除していたのですが……あなたに必要か分かりませんし、こういうことをしていいのか、私も迷ったのですが」

 私は何気なく表紙を見て、すぐに息を飲んだ。
 ――それは、彼女の筆跡だった。

「これは……」
「ミラさんのものだと思います。引き出しの奥にありました」

 その名を聞いた瞬間、私の中で時間が止まったようだった。
 指が勝手に動いて、私はクラボフスキさんの手から手帳を引き取った。硬い背表紙の感触、乾いた紙の匂い。
 彼女が触れていたものが、確かにそこにあった。
 クラボフスキさんは、私の表情をひと目見て、そっと退出していった。

 私は震える指で表紙を開いた。

 そこにいた。彼女が。まだ、ここにいた。


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