第8章 再構成された信仰仮説
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ある夕暮れ、クラボフスキさんが書斎にやってきた。手に、見覚えのある革表紙の小さな手帳を抱えて。
「今、彼女の部屋を掃除していたのですが……あなたに必要か分かりませんし、こういうことをしていいのか、私も迷ったのですが」
私は何気なく表紙を見て、すぐに息を飲んだ。
――それは、彼女の筆跡だった。
「これは……」
「ミラさんのものだと思います。引き出しの奥にありました」
その名を聞いた瞬間、私の中で時間が止まったようだった。
指が勝手に動いて、私はクラボフスキさんの手から手帳を引き取った。硬い背表紙の感触、乾いた紙の匂い。
彼女が触れていたものが、確かにそこにあった。
クラボフスキさんは、私の表情をひと目見て、そっと退出していった。
私は震える指で表紙を開いた。
そこにいた。彼女が。まだ、ここにいた。