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軌道逸脱と感情の干渉について【チ。/バデーニ】

第8章 再構成された信仰仮説


あの日から、私はほとんど狂気のように研究に没頭していた。目を覚ました瞬間から机に向かい、何かに取り憑かれたように書き、計算し、構築し、検証し、破棄する。
まるでこの行為そのものが、私の中の空洞を埋めてくれると信じ込もうとするように。

だが、いくら数式を組み直しても、どれだけ理論を構築しても、心の穴には風が吹き抜けるだけだった。むしろ、鋭さを増した風が傷口をなぞり、癒えかけた部分すら抉り返してゆく。

親友を殺めた日。知性は孤独の中でこそ純化されるのだと、他者に期待するなどという贅沢な過ちは二度と繰り返さぬと、そう神に誓ったはずだった。
それなのに、私はまた間違えたのだ。

結局のところ、私は誰かに見つけてほしかったのだ。私の知性を、私の孤独を、その剥き出しのままに肯定してくれる誰かを、懲りもせずに求めていた。
一度目は無知ゆえの油断。二度目は、傲慢ゆえの盲目──。

あんなにも聡明だった彼女の瞳に、あんなにも美しい命に、私は呪いのような執着を分け与えてしまった。私が彼女の手を取らなければ、彼女は今も、退屈で安全な貴族の庭で、緩やかな死を待つことができただろう。

私は、彼女を心から愛していたのだろうか。彼女を媒介して、自分自身を愛そうとしただけではないのか。その身勝手な渇きが、結果として彼女を死へ、そして私を暗闇へと引きずり込んだのだ。当然の応報だった。

それでも、私はこの期に及んで執着を手放し切れなかった。
研究を本格的に進めるのであれば、V共和国へ移ることもできた。あちらの学術機関とは密に連携を取っていたし、設備も整っていた。だが、私は踏み出せずにいた。

彼女と過ごした景色を、生活の匂いを、声を、空気を、すべてを置き去りにするような気がして。いや、気がしてなどと曖昧な言葉で誤魔化すべきではない。
それは私の、どうしようもなくちっぽけで、未練がましい執着だったのだ。
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