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軌道逸脱と感情の干渉について【チ。/バデーニ】

第8章 再構成された信仰仮説



 また月日が巡った。

 あの日から、私はほとんど狂気のように研究に没頭していた。
 目を覚ました瞬間から机に向かい、何かに取り憑かれたように書き、計算し、構築し、検証し、破棄する。
 まるでこの行為そのものが、私の中の空洞を埋めてくれると信じ込もうとするように。

 だが、いくら数式を組み直しても、どれだけ理論を構築しても、心の穴には風が吹き抜けるだけだった。むしろ、鋭さを増した風が傷口をなぞり、癒えかけた部分すら抉り返してゆく。

 研究を本格的に進めるのであれば、私はV共和国へ移ることもできた。あちらの学術機関とは密に連携を取っていたし、設備も整っていた。だが、私は踏み出せずにいた。

 彼女と過ごした景色を、生活の匂いを、声を、空気を、すべてを置き去りにするような気がして。いや、気がしてなどと曖昧な言葉で誤魔化すべきではない。
 それは私の、どうしようもなくちっぽけで未練がましい執着だった。

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