第7章 不在の証明
翌朝、私は決めた。
教会へ戻る。もしも彼女が道に迷って、戻ってくることを選んだならば。もし、他に頼る場所がなかったとしたら、帰る先は私たちのあの教会しかない――そう思った。
帰路の道は、まるで背後から時間が崩れていくような感覚だった。歩を進めるごとに、現実が遠ざかっていく。彼女と過ごした、あの短くも確かな日々だけが、やけに鮮明に心に残っていた。
教会へ戻った私を、クラボフスキさんは特にとがめることもなく迎えた。
彼はただ一言、「お戻りですか」とだけ言った。
そのあと数日が経った。私はジルさんを待ち続けた。朝が来るたびに、彼女が姿を現すような気がした。だが、それはただの錯覚だった。
ミラ――ジルさんは、二度と私の前に姿を現さなかった。
時間は静かに、確実に過ぎていく。一日ごとに、その沈黙は私の胸の奥に染み入り、ゆっくりと、確実に希望を削っていった。思考が静まり、感情が音を立てずに崩れていく。心に開いた穴は塞がる気配すらなく、ただ、そこに風が吹いていた。
クラボフスキさんは何も聞いてこなかった。
けれど、彼は知っているのだろう。
ジル――「ミラ」がただの雇われメイドでなかったことも、私と彼女の間に何かがあったことも。
彼はあまりにも無関心すぎるほど無干渉だった。そのくせ、ときどきじっと私の顔を見る。
問いはない。ただ、案じているのだとわかった。
彼は気づいていた。ミラが、中央修道院が追っていた女だと――薄々ながら、直感していたのだろう。
それでも、彼は黙っていた。私が口を開くまでは。
そうして、また月が巡った。