第7章 不在の証明
その夕刻、ジルさんが市から帰ると、私は待っていたように声をかけ、小屋の裏手に彼女を連れて行った。
「何か……あったんですか?」
「話がある。すぐに」
扉を閉めると、私は静かに椅子をすすめ、地図を広げながら、昼に起こったことを淡々と語った。
修道士が来たこと。彼らが持っていた正式な追跡文書。そして、彼女の痕跡が確実にここまで追われてきていること。
「おそらく、もう明日には戻ってくる。次は直接、“ミラ”に対して疑いを向けてくるだろう」
ジルさんは私の話を黙って聞いていた。いつもの彼女なら軽口を挟みそうな場面でも、一切の冗談が消えていた。
だが、私の口が先に動いた。
「……なぜ君が指名手配までされるような“凶悪犯”だったと、誰も教えてくれなかったのでしょう。まるで隠し子がいるとか、借金を背負わせてくる恋人みたいだ」
ジルさんはきょとんとした顔をし、それから少し笑った。
「隠し子はいませんが、指名手配犯にはなりました。……まさかこんな形で、バデーニさんの生活に支障をきたすとは」
「支障だけで済めばいいがね」
私は地図を広げ、一点を指差した。
「今夜、ここを出てほしい。今日は新月だ。闇が深く、足跡が残りにくい。北西に抜けた先に、かつて滞在していた宿舎がある。人目は少ないが、安全だ。そこへ三日かけて向かってほしい。私は後から合流する」
「……一緒には行けないんですか」
「私の書類がまだ通らない。身分を証明しなければ越えられない検問がある。君を連れていれば、余計に目を引く。君だけなら、野良修道女か迷い子で通る」
「それ、誉めてます?」
「半分くらいはね」
彼女はふっと鼻を鳴らしたが、その瞳は冗談をそのまま受け取ってはいなかった。