第6章 必要十分条件としての君
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翌朝、私は夜明け前に目を覚ました。窓の外はまだ薄暗く、森の輪郭が墨を流したように沈んでいる。
昨夜の思索が、眠りの底までついてきたのか、夢のなかでまで彼の背を追いかけていた。
ぼんやりとしたまま着替えを済ませ、パンを炙る火を起こしながら、心を落ち着かせていく。
言葉にすれば簡単なことだった。「一緒に行きます」と。ただそれだけ。
だけど、その言葉が胸の奥で何重にも絡まり、なかなか唇に乗ってこない。
これは、私の人生をまるごと差し出すような返事だ。
それでも、私は決めた。昨日、何度も迷い、何度も恐れながら、それでも最後に私の心に残ったのは、彼の顔だった。
パンの焦げた香りが漂う頃、裏庭の小道に足音が響く。
私は急いで表に出た。朝露に濡れた草を踏みしめて、いつものように、彼が静かに小屋へ向かって歩いてくるのが見えた。右目には黒い眼帯をつけたままだが、左目は朝日を受けてわずかに輝きを返している。
その微かな光に、私はひそかに安心しながら、手を振った。
「バデーニさん、おはようございます」
彼は立ち止まり、私のほうに顔を向けた。その気配で、私がすでに近くにいることを察したのだろう。