第5章 誓いと背反
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左遷先の教会までは、幾つもの検問や村を越えて行かねばならなかった。だが幸い、私には中央修道院から地方教区への左遷という正式な辞令があった。表向きは療養のための転任ということになっている。
ジルさんは目立たぬよう頭巾を深く被り、簡素な身なりに着替えていた。彼女は私の“盲目の主”に仕える“メイド”として、従者のように振る舞うことに決めていた。
「名前は……ミラと名乗ります」
そうジルさんは言った。私の祖母の名だった。ジルさんがその名を覚えていたことにも驚いたが、それが私にとって安心を呼ぶ音であることも、彼女はわかっていたのかもしれなかった。
馬車を二度乗り継ぎ、村の宿で一晩を明かし、さらに徒歩で半日。石造りの、見上げるほど大きな建物とは違う、風と土とに馴染んだ古い教会が、森の外れにぽつりと建っていた。
人影は少なく、村人も教会に寄りつかないのか、あるいはただ静かな季節のめぐりの一部なのか。
ともあれ、これならば──隠れるには悪くない。
教会の小さな客間で、クラボフスキ司祭との面談が設けられた。黒髪を短く刈り込んだ典型的なトンスラの男で、年の頃は四十代。穏やかな笑みをたたえた目元には誠実さが滲み、村人に深く信頼されていることが一目で分かった。
「お連れの女性について説明を」
私は、ジルさん──ミラを伴い、静かに口を開いた。
「彼女は私の視力が戻らない可能性を鑑み、従者として雇った者です。前の任地では診療所の助手をしていた。薬草の知識もあり、私の研究と、村の療養にも貢献できるはずです」
クラボフスキさんはジルさんを一瞥し、彼女が恭しく頭を垂れるのを見ると、優しく頷いた。
「村人はよそ者に慎重ですが、役に立つ方ならすぐに馴染めるでしょう。どうぞ、お二人ともご自愛を」
「感謝します」
短く、しかし毅然と私は言った。私は自分の名を使って、この地でジルさんの居場所を守ると決めていた。神の名ではなく、自らの名で。