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軌道逸脱と感情の干渉について【チ。/バデーニ】

第5章 誓いと背反



 私は、すぐに行動を始めた。部屋に戻るなり、机に指を這わせて紙とペンを探り当てる。見えにくい手元を慎重に確かめながら、地図を思い浮かべ、頭の中で最短経路を組み立てた。

 修道院の裏手には古い修道士の墓地がある。その先には人目につかぬ裏道が一本、かつて火事で崩れた倉庫の廃墟へと続いていた。日が沈んでからなら、見回りの修道士はそちらまで来ない。

 問題は、ジルさんが修道院の中で見咎められずに動ける時間帯だ。彼女はいつも夜遅くまで診療室に残っていた。寮の灯りが消えていても不自然ではない。ならば、その時間を使う。

 衣服も替えなければならない。修道女の白衣のままでは、どれほど姿を隠しても目立つ。彼女の体格に合うような、地元の娘が着る粗末な服をどこかで調達する必要があった。

 名を偽る準備もしておくべきだ。かつて知己の修道士が偽名を用いて記録を改竄した話を思い出す。診療記録台帳の管理は、自分が一時期任されていた。名前と経歴、年齢、移送理由。今ならまだ帳面の最終確認をするふりをして、書き換えられる。

 逃避行の出立は──三日後。月が新月を迎える夜を選んだ。灯りがなく、雲が出ていれば最善。

 ジルさんには、余計な不安を与えぬよう詳細までは話さなかった。だが彼女も察していたのだろう。「準備ができたら教えてください」とだけ静かに告げてくれた。

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