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軌道逸脱と感情の干渉について【チ。/バデーニ】

第5章 誓いと背反


 
 不思議な静けさに満ちた、冗談。
 私は肩を震わせて笑いながらも、頭のなかでは狂ったように計算していた。

 ジルさんをどうやって修道院から安全に連れ出すか。
 どの身分を名乗れば怪しまれないか。 左遷先の教会は、どれほどの自由があるか。

 それは逃避ではなく、戦略だった。

 彼女が命を懸けるのならば、私もまた、その覚悟を背負わなければならない。

 そして、彼女の目になってもらう代わりに、私は彼女の道になると、密かに誓った。
 
  ──ジルさんを逃がす。

 その決意は、冗談の余韻がまだ残る頭のどこかで、早くも現実的な思考へと姿を変えていた。

 ぼんやりと霞む左目の視界の中で、ジルさんは微笑んでいた。薬草の香りと、彼女の手のぬくもり。ふとすれば感情に呑まれてしまいそうになる。けれど、今はまだ甘えられない。甘えれば、それだけ彼女の背負うものが重くなる。

 彼女を地獄に巻き込んだのは、他ならぬこの自分なのだから。

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