第4章 観測されざる傷
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扉が背後で閉まる音が、やけに重たく耳に残った。外の空気は妙に冷たく、まるで季節が一足飛びに冬へ移ったかのようだった。だが、それ以上に凍えるのは、自分の内側だった。
――また、だ。
また、自分は理解されなかった。彼女にだけは伝わっていると、そう思っていたのに。
違ったのだ。
私は、何を期待していたのだろう。自分のやり方を、すべて肯定してくれることか? 他者など信じない、独りでやると決めていたくせに――。
それでも、彼女だけは別だと思っていた。何も言わずとも、静かに寄り添ってくれたあの夜の唇の温度を、私はまだ覚えていた。けれどあれは、ただの一夜の情だったのか。それとも、私が勝手に錯覚していたのか。
結局、誰かと心を交わすということは、期待と裏切りの往復でしかないのだ。私は何度それを経験すれば、完全に悟れるのだろう。
それでも――心のどこかが疼いていた。彼女の言葉が、ただの批判だったとは思えなかった。あの視線には、確かに痛みがあった。まるで、私以上に私の傷に気づいているかのような。
だが、それでも私は受け入れられなかった。
なぜなら、踏み込まれたくなかった。拒んだのではない。怯えたのだ。これ以上、大事な誰かを失うことに。
私は、自分のやり方を守りたかったのではない。ただ、自分を守っていたのだ。