第4章 観測されざる傷
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ジルさんの診療室を訪れたのは、懲罰の痕が思ったよりも深く、私自身、動きに支障を感じるほどだったからだった。縫うほどではないが、右脇腹に出来た裂傷と、背に浮かんだ痣は、日に日に痛みを増していた。
扉を開けた私の姿を見るなり、彼女の表情が変わった。
「そんな……。今回は、かなり強く……」
言葉を濁しながらも、彼女はすぐさま私を診察椅子に座らせ、手早く薬箱を手に取った。静かに指先が布越しに私の脇腹をなぞる。消毒液が染みて、私はわずかに眉をしかめた。
「……いつもはご自分で処置なさっていましたよね。なぜ今日は、ここへ?」
問いかけに、私は答えあぐねた。
「……別に。たまたまです」
「そうですか。けれど……今日のは、ご自分で処置するには少し無理がありますね」
彼女はそう言いながら、丁寧に包帯を巻いていった。いつもと同じ、落ち着いた所作。だが、声には明らかな緊張と心配がにじんでいた。
「懲罰だったのでしょうか」
私は無言で頷いた。
「……修道院長に、また叱責を?」
視線が合う。私は目を逸らすことなく、ぽつりと口を開いた。
「協力しないこと。誰とも研究を共有しないこと。それでまた、叱られました」
「そう……ですか」
「『傲慢だ』『信仰の共同体にそぐわない』……そう言われましたよ」
彼女の手が止まった。
「……あなたは、どうお感じになったのですか。そのお言葉を受けて」
「感じたも何も、言いがかりですよ。私はただ、他人に頼らず、独力で進めているだけです。凡庸な連中に手を貸しても、足を引っ張られるだけだ。……彼らの無知に合わせる必要が、どこにあると言うのです?」
その言葉が出てから、部屋の空気がわずかに動いた。
「……それは、つまり……能力の低い者とは関わりたくないと?」
「そうです。私は修道者としてここにいますが、真理を追う者としては、道を阻む者を仲間とは思えない。学びを共有するには、相手が私の歩幅についてこられるだけの才覚を持っていなければ意味がありません」
「……あなたのように、高みにいる方にとって、私のような者も……?」
彼女の声に、ふっと陰が落ちたような気がして、私は一瞬、口をつぐんだ。
「……あなたは違う。あなたには理性がある。感情で動かず、事象を見つめようとする目がある」