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軌道逸脱と感情の干渉について【チ。/バデーニ】

第3章 証拠なき契約



 ◇◇◇◇


 あれから、さらにひと月が過ぎた。
 彼に会わないまま、また新月が巡ってきた。

 日々の務めは変わらなかったけれど、どこか身体の奥に釘を打たれたような痛みが、ずっと抜けなかった。
 自分ではそんなつもりなどなかった。けれどあのとき、彼の顔が曇ったのを見たとき、自分の言葉がどれほど残酷だったかを、ようやく思い知らされた。

 彼は、自分のことをもっと知りたいと、そう言ってくれたのに。
 私は、最も重要な部分を、ずっと言わずにいた。

 自分が、いつか修道院を去らなければならないこと。
 それが突然やってくるかもしれないという現実。
 そして、そうなれば、もう二度と、彼と会うことさえ叶わないということ。

 謝らなければ――そう思っていた。
 けれど、謝るために会いに行くのは違うような気がしていた。
 だって私は彼に、何かを許してもらうためにあの夜、手を繋いだんじゃなかった。
 ただ、あの夜は……彼と、心が通じ合ったと思ったのだ。
 それは夢のような時間だった。思い返すだけで、胸が苦しくなるほどに。

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