第2章 理性の裂け目
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夜が近づくにつれて、私は何度も鏡の前に立った。修道服の襟を整え、清潔な外套に着替え、香油をほんの少し手首に馴染ませる。目立たぬよう、香りは控えめに――けれど、それでも胸が高鳴ってしまうのはどうしようもなかった。
「……こんなの、変だよ」
自分にそう言い聞かせるけれど、頬が熱い。さっきまで彼と話したばかりなのに、またこうして会えることが嬉しくてたまらない自分がいる。それがとても幼く思えて、少し恥ずかしい。
消灯後、私はそっと診療棟を抜け出して、丘の鐘楼跡へと向かった。
新月の夜は想像以上に暗く、足元の草の感触だけが頼りだった。それでも、彼が待っていると思うだけで、足取りは軽い。