第2章 理性の裂け目
*
書斎に戻ると、机の前に立ち尽くし、しばらくしてから椅子に沈み込む。
何を言っていたのだ、自分は。
感情をぶつけるつもりなどなかった。私がただ届けたかったのは小包であり、再会の喜びと、研究の話題だったはずだ。
だが、私が胸中に覚えたあの異物は何だったのか。
『高貴な方で、男性なら』――その仮定に私は明らかに反応した。
異性というだけで人の感情が不安定になることがあるのは、理解している。が、あれは私が理性を手放すほどのことだったのか?
「……嫉妬」
呟いた自分の声が、書斎に落ちた。
妬みなど、私には縁のない感情だと思っていた。けれども、あの場で起きたことを客観的に検証すれば、それ以外に説明のつかない要素がある。
私は彼女が笑っていたことに、心を乱された。
そしてそれは、単に彼女が世俗の者に愛想を振りまいたからではない。
――相手が男だったからだ。
冷静な観察者としての私の仮面が、脆くも崩れた瞬間だった。