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軌道逸脱と感情の干渉について【チ。/バデーニ】

第2章 理性の裂け目


「あなたのような、聖職者であり研究者である高貴な方に、ああいった世俗の者が気安く接触することそのものが、です」
「……え?」
「あなたもあなたです。研究に専念すべき立場にありながら、あのような者に笑みを見せる必要があるのか? 無用な親しみは誤解を招く」
「私は……そんなつもりはありません」
「そうですか。だとしても、あなたのような聖職者が、軽薄な態度の男に気安く話しかけられるのを黙って見ていろと? 私は忠告しているのです。世俗の者を甘やかすのは、あなたの品位を貶める行為だ」

彼女は黙し、ほんの少し笑ったような、やや苦い顔をしていた。

「バデーニさんのおっしゃることは分かりました。それでは仮に、私が高貴な男性を治療していた場合、それはバデーニさんを不快な気持ちにさせますか?」
「……質問の意図が分かりかねます」
「仮の話です。バデーニさんが認めるような、身分も立場もある男性であれば、問題はないのか、と」

その言葉に、私の胸中で何かが小さく軋んだ。頭の奥に熱が灯る。

「ふん。まさか、私の不快が嫉妬に起因するものだとでも?」
「そんなつもりで言ったわけでは……」
「であれば、そういった軽率な推論を口にするべきではない。あなたほどの方ならば、事実に基づいた対話を望みたいものだ」
「私はただ……」

ジルさんを遮って私は捲し立てる。

「私は、あなたが誰と関わろうと、それ自体を問題視しているわけではありません。ただ、それが〝聖職者〟としての立場に相応しいかどうかを問うているだけです。本来、修道院は貞潔・清貧・従順の三誓願に基づき秩序を保っている組織だ。その秩序を揺るがしかねない軽率な振る舞いを、私は看過できないと言っているのです」
「軽率だなんて。私はそんなつもりで……」
「つもりで、済まされる問題ではありません。誤解を生む振る舞いは、誤解された側にも一定の責任が生じる。それがあなたのような立場の方であれば、なおさらです」

ジルさんは少し強い口調で言い返す。
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