第1章 因果律の彼方に
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その夜、私は久々に丘へ登り、仰向けに寝そべって星を眺めていた。
地面に背を預けると、草の匂いと土の冷たさが、じんわりと体に染み込んでくる。
ただ見上げているだけなのに、星たちは私に何かを語りかけるようだった。
夜空は、ただの美しい風景ではない。
それは神が描いた数式であり、知性と神秘の狭間にある巨大な真理の構造だ。
私はこの感覚を、忘れることも、逃れることもできない。
それは呪いのようであり、同時に、唯一の救いでもあった。
深いため息が漏れた。
瞼を閉じ、ジルさんの顔が浮かぶ。
知ることの喜びを、そのままあどけなく顔に出す人だった。
……羨ましい。あの無垢さを、私はとうに失った。
もはや、あの人のように星を見上げることはできない。
私は己の研究と名誉のために、親友を――
神が許すはずがない。
この罪は、どんな悔い改めも償いもしない。
この傷は、どんな治療でも癒えない。
これは、神が私に与えた十字架だ。
けれど――なぜ私は、こうしてまだ生きている?
心のどこかで、問いが生まれていた。
ジルさんがいなくなって、私の中に何も残らなかったなら、
私はあの瞬間、星を見る資格を失ったなら、
――なぜ私は、こうして夜空の下にいる?
もし神が本当に存在するなら、
私にこれほどの知識欲と観測の目を与えた意味は、何なのか。
この手がまだ震えるのは、ただの罪悪感なのか。
それとも、まだ何かを為せと、どこかで誰かが私を呼んでいるのか。
私は跳ね起きた。
風が一陣、草を鳴らす。
心臓が、痛いほどに脈打っていた。
そして、私は駆け戻る――寮の扉を乱暴に開け、机へ向かう。
呼吸を整え、震える手で……私は、封印していた天文学書を開いた。
星図の頁が目に入る。まるでそれは、沈黙の中で私を見つめ返してくるようだった。