第7章 沈黙の証言
数日が経った。
施設内は以前と変わらない日常を装っていたが、少しずつ、ほんの少しずつ――空気が変わり始めていた。
共有スペースやトレーニングルームで、優人がに近づく場面が増えていた。
肩に手を置く。耳元で話しかける。さりげない触れ方。
それは一見、気遣いにも見える行為だったが、見ている側には妙な違和感が残った。
千切は、ある日ふとした瞬間にその様子を目にした。
が清掃用具を抱えて廊下を歩いていたとき、後ろから優人が声をかけ、すぐそばまで近づいていた。
優「ああ、それ重いでしょ。手伝おうか?」
「……大丈夫…です……」
わずかに身体を引いたの仕草を、千切は見逃さなかった。
それでも優人は、自然を装いながら肩に触れようとしていた。
千(……いや、距離、近くないか?)
その夜、食堂のテーブルにいた千切は、そっとその違和感を口にした。
千「なあ、今日さ……が清掃してるとこ見たんだけどさ。黒田さん、やっぱり距離近い気がするんだよね」
潔が頷く。
潔「俺も感じた。最近、やけに声をかけてるよな。優しくしてるつもりなのかもしれないけど、さんの表情……なんか、無理してる」
千切「……前に話してた、元恋人の話。あれって、やっぱ……」
國神「もし黒田さんがその相手だったとして……」
凪がスプーンで飲みかけのスープをくるくる回しながら、ぽつりと呟いた。
凪「……終わってないんじゃない?あの人の中で」